【講座受講】将棋の教育的意義について(安次嶺隆幸氏)

将棋をやっている子供は、なぜ「伸びしろ」が大きいのか?

この一文、私が10年ほど前に読んだ本のタイトルです。
作者は日本将棋連盟の学校教育アドバイザーを務めている安次嶺隆幸氏。

私は10年間親将として息子や他の子供達を将棋教室、将棋大会、将棋イベントを通じて成長を見て参りました。
本の内容が無意識に定着しており、要所要所で実践してきたように思います。

今回、安次嶺先生の講座が東京福祉大学で開催されると聞いて、講座を受講して参りました。
1時間半の講座内容をかみ砕き、3分で読める内容にまとめましたので、参考にしていただければ幸いです。

ダイス

できる限り簡潔にポイントを絞って記事にしました。

目次

安次嶺隆幸氏

安次嶺隆幸先生
安次嶺隆幸先生

今回の講師、安次嶺隆幸先生は、過去に奨励会テストを3度受験、アマ五段を持つ棋力の持ち主で、33年間小学校の教員を務めた学校教育のスペシャリストです。

教員時代に将棋を活用した教育方法を実践しながら、その効用や子供の伸びしろを研究されてきました。
日本将棋連盟の学校教育アドバイザーも務めておられ、日本将棋連盟のコラムでも安次嶺先生のコラム「子供たちは将棋から何を学ぶのか」が掲載されています。

日本将棋連盟HPの安次嶺先生コラムはこちら

安次嶺隆幸氏 肩書
  • 肩書き
    • 東京福祉大学教育学部教育学科 専任講師
    • 公益社団法人日本将棋連盟学校教育アドバイザー
  • 主な著書
    • 「世界一のクラスをつくる100の格言」
    • 「世界一の授業をつくる100の格言」
    • 「私学の伝統 品格のある子どもを育てる格言集」
    • 「すべては挨拶から始まる!「礼儀」でまとめる学級づくり」
    • 「1年生のクラスをまとめる51のコツ」
    • 「2年生のクラスをまとめる52のコツ」
    • 「将棋をやってるこどもはなぜ「伸びしろ」が大きいのか?」
    • 「子供が激変する将棋メソッド」
    • 「将棋に学ぶ」
    • 「子ども将棋入門」(羽生善治監修)
    • 「将棋を指す子が伸びる理由(わけ)」
  • 2015年以降毎年JT将棋日本シリーズ(テーブルマーク子ども将棋大会)にて講演
ダイス

安次嶺先生は将棋関連だけではなく、教育の専門家としてもご活躍されています。

安次嶺先生著書

講座概要

本講座は、2022年11月12日群馬県伊勢崎市にある東京福祉大学伊勢崎キャンパスで開催されました。
伊勢崎市教育委員会生涯学習課共催で、伊勢崎市教育委員会の関係者も多数ご出席されておりました。

東京福祉大学
東京福祉大学伊勢崎キャンパス
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東京福祉大学は、JR本庄駅からバスで15分ほどです。

講座のタイトル・概要

公開講座会場
公開講座会場

講座のタイトルは下記の通りです。

講座のタイトル

「藤井聡太五冠は何故、凄いのか?」
~将棋の教育的意義から紐解く現代の子ども達の課題~

ダイス

将棋の教育的意義をトップ棋士の取り組み方を通じて学ぼうとする講座になっています。

講座内容

講座概要

講座は下記の流れで進みました。

  1. 冒頭:現代社会の問題点(例:スマホを見ながら会話なしのカップル)
  2. テーブルマークこども将棋大会(親御さんが「無言の観戦者」となり子供たちの対局を見守る)
  3. 羽生善治九段が小学校に来訪された時のエピソード
  4. 藤井聡太五段の対局前の心構え
  5. 将棋の教育的意義(我慢すること、全て自分の責任、コミュニケーション力、3つの礼)
  6. 積み将棋で一局を体験(「詰み」ではなく「積み」)~三つの礼~
  7. 羽生善治九段の言葉
  8. 将棋駒の紹介
  9. 伸びしろのある子を育てる
ダイス

全部は長くなるので、印象に残った部分だけ切り取って紹介します。

トップ棋士は何故強いのか(羽生九段、藤井五冠の例)

本日の講座のテーマでもあるトップ棋士の強さについて羽生九段と藤井五冠のエピソードを紹介いただきました。

17年前の2005年、羽生九段全盛期の頃のお話です。
安次嶺先生が当時東京九段下の小学校で教員をされている時に、羽生九段がぶらっと小学校に来られたそうです。

その時の2枚の写真を紹介されておりましたが、一つは子供達7~8人と無邪気に笑っている写真。
もう一つは指導対局をされている写真でした。

1枚目の写真は、羽生九段が子供達と同じ目、同じ思いで写真撮影を心から楽しんでおられるのがよくわかる写真でした。
一流のトップ棋士と言えども全くの自然体で奢ることなく子供達と同じ目線で写真撮影に応じておられるのがよくわかります。
羽生九段のお人柄、謙虚な姿勢がよく表れていました。

2枚目の写真は、指導対局をされている時の羽生九段の表情。
子ども達相手に20面指をされている羽生名人は真剣そのもの。
その真剣な姿が子ども達にも伝わり、緊張感ある指導対局になったとのことでした。
子ども相手でも棋力が低くても決して手を抜かない、羽生九段のプロフェッショナルな姿勢が出ているエピソードです。

羽生九段は「一日一日を活き活きと生きる」を実践されているとのこと。
将棋の世界は勝ち負けの厳しい世界ですが、その中でも毎日を大切にし、何事にも一生懸命に歩んでおられるという姿勢は子供のみならず、私達大人にも通じるものがありました。

また羽生九段は「プロフェッショナルになる人は?」の問いに「努力を続けられる人」と答えたそうです。
「努力を続けられる人」=「続ける力」、これが一流になるための条件になる。
なるほどと思いました。

なかなか人間とは弱いもので、一度「やるぞ!」と決めてもなかなか継続するのが難しい。
それを継続できる人、続ける力がある人が一流になれる人、成功する人なのですね。

ダイス

私もこのサイトを続けていけるよう頑張りたいです。

羽生九段からの学び
  • 自然体で謙虚な姿勢
  • どんな相手でも真剣に応対する
  • 一日一日を活き活きと生きる
  • 継続する力

藤井五冠のエピソードも取り上げておられました。

藤井五冠が初めて羽生九段と対局する前に、藤井五冠は心境を下記のように述べられたそうです。

羽生先生と指せることは光栄です。幸せに思う。

当時藤井五冠はまだ15歳。
すでに自分を俯瞰して見ており、なかなか言える言葉ではありません。
常に感謝の気持ちを持って、日々過ごされていることがわかります。

このエピソードを聞いて、私は昨年(2021年)のテーブルマーク子ども大会、東京大会低学年の部でのエピソードを思い出しました。
決勝戦は袴姿で壇上で対局するのですが、対局前に両対局者にインタビューをします。
一人の子がこのように述べました。

憧れの○○君と決勝の舞台で対局することができて嬉しい。

1年前の記憶なので正確には違っていたかもしれませんが、藤井聡太五冠と同じようなことを小学三年生君が言ったのです。

普通なら「勝ちたいです」とか「いい将棋がしたい」などのコメントになるのですが、三年生君はそれ以上に将棋を指す喜びを表現されておりました。
普段から対局相手を敬う姿勢を持たれているのでしょう。
また勝ち負け以上に将棋が好きなのが伝わってきます。

当時私はこの三年生君にいたく感動したことを覚えています。
このエピソードは将棋の持つ教育的意義のように思えました。

藤井五冠が対局後の「ありがとうございました」の礼で常に深々とお辞儀をされている写真も紹介されました。

藤井五冠の相手を敬う姿勢、謙虚な姿勢がはっきりと表れています。
普段から礼儀を重んじる将棋の伝統的価値をトップ棋士の藤井五冠が大事にされていることがよくわかりました。

藤井聡太五冠からの学び
  • 将棋が指せることの幸せ(感謝の気持ち)
  • 礼儀正しく、相手を敬う

「負けました」は弱い自分に克つこと

将棋には3つの礼があります。

将棋の3つの礼
  • お願いします
  • 負けました
  • ありがとうございました

この3つの礼は将棋を指す上で基本中の基本のマナーです。
おそらくどの将棋教室でも最初に教えるのは上記3つの礼かと思います。

本講座でも礼儀の大切さ、将棋の3つの礼を紹介されておりました。

中でも将棋独特の礼(挨拶)が敗者のみが言う「負けました」です。

将棋は特別なルールがあり、必ず敗者は「負けました」あるいは「参りました」と宣言しなければなりません。
厳密に言うと、これを言わないと対局が終了とならないのです。

中にはマナーの悪い方がいて、王将を取られるまで指し続け、「負けました」を言わずに立ち去る人もいます。
相手にされなくなりますので、マナーを守って気持ちよく将棋を指すように心がけたいですね。

ダイス

マナーの悪い人とは対局したくないですね…。

安次嶺先生は、この「負けました」を言うことで次の効果があることを述べられておりました。

  • 弱い自分(ありのままの自分)を認める勇気が持てる(精神的に強くなれる)
  • 負けた悔しい気持ちを折りたたみ、感想戦に入ることができる(より高みを目指せる)
  • 負けたのは自分の責任(言い訳しない、人のせいにしない)

すでに負けがわかっているのに、「負けました」という言葉を出して宣言するのはつらい作業です。

ただその教育的意義は大きく、「負けました」を言った回数分精神的に強くなれます。
また自分の責任であることを自覚できるので、言い訳や人のせいにしない人間に育ちます。

安次嶺先生は、「「負けました」は弱い自分に克つこと」と言われておりました。
「負けました」を宣言することは、弱い自分を認め、敗局を折りたたみ、精神的に強くなった証でもあるとのことです。

本講座では、「積み将棋」を受講者同士で行い、将棋の3つの礼を体感しました。
「積み将棋」はお互いが順番に将棋の駒を上に積み上げていき、落とした方が負けのルールです。

私個人は普段から将棋を指すので、「負けました」は普通に言えました。
ただ相手の方は、「負けました」を言うのは少しためらっていたご様子でした。

私の場合普段将棋を指しますので、「負けました」と言った数が多いです。
その分素直に負けた自分を認めることができるのかもしれません。

親将としての心構え

親御さんは我が子の対局をじっと見守る
2019年テーブルマークこども将棋大会 東京大会

将棋は他のスポーツと違い、周りで見ている親御(親将)さんは声を出しての声援はマナー上できません。
子どもの対局姿をじっと見守るしかないのです。

安次嶺先生は、3000人以上が参加したテーブルマーク子ども大会で駒音のみが会場に響く光景を目の当たりにし、じっと見守る親御さんを「無言の観戦者」と呼ばれていました。

先生は将棋を指している親御さんに対し、真剣に指している子どもを見守ってやってください、勝っても負けても褒めてやってくださいと言っておられました。(対局内容まで見れるのであれば、好手も褒めてほしいと)

一度我が子を対局場へ送り出せば親御さんはただ見守るしかできません。
決して口出しせず、最初から最後まで子どもの責任で対局をさせること、これこそが教育の基本なのではないかとも言われておりました。

テーブルマーク子ども大会では、真剣に指している我が子を見守る親御さんであふれていますね。
「無言の観戦者」として親御さんもマナーよく観戦されている光景をよく見ます。

講座を終えて

安次嶺先生の講座は、10時から12時前までの約2時間でした。

私は安次嶺先生の著書「将棋をやっている子供は、なぜ「伸びしろ」が大きいのか?」を読んで講座に臨みましたので、先生が言われること、伝えたい事が本のコンセプトと同様でしたので、理解しやすかったです。

講座内容も先生が話す一辺倒ではなく、受講者参加型の楽しい講座にしようと工夫をされておりました。
将棋を指したことのない人に「積み将棋」で3つの礼を体感させたり、将棋駒に触れさせたり、動きを入れることで飽きさせない様にされておりました。

受講生は年配の方が多く、地元伊勢崎市周辺の方が参加されているような印象です。

講座を終えた後、安次嶺先生に持参した著書を見せると快くの本にサインを書いていただきました。
また写真撮影にも気軽に応じていただきました。

気さくな方で私の話もちゃんと目を見ながら真剣に話を聞いていただきましたし、何かあったらご連絡くださいと名刺まで頂戴しました。

やはり教壇で30年以上教師をされており、今は教師の卵である学生さんや教師のための塾をボランティアで開かれているだけのことはあります。

今日の講座を通して、将棋の教育的意義を確認させていただきました。
私もこども将棋のブログを通して親将さんに役立つ情報を発信し続けたいと思います。

今回は将棋の教育的意義について、安次嶺先生の講座報告でした。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

「続ける力」
安次嶺先生よりいただく
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